奥田 民生

 私が中学の頃から今に至るまでずっと飽きずにアルバムを買い続けている、数少ない日本人アーティストの一人。ユニコーンが解散してしばらく経ってからの、ソロシングル『愛のために』で見事に復活を遂げ、その後10年以上も第一線で活躍し続けている、実は凄い人。その「しばらく」の空白期間はほとんど釣り三昧だったと言うから、なおのこと驚かされる。そういうエピソードだけでも、いかにこの人が呆けるのが好きなマイペース人間かという事がよく分かる。そのマイペースさと音楽業界での地位とのイメージ的なギャップが、どうやら「面白いキャラクター」として機能している。
 しかし同時に、いかに音楽を、ロックを愛しているかという事も言っておかなければならない。バンドが成功してメンバーが車などを買い出し始めた時期に、彼は1959年製のLes Paulを購入したという。また、作品の中にはオールディーズやThe Beatlesを彷彿とさせたり、引用したりもしているが、その手法からは、単なるパクリとはいい難い先人達への尊敬と愛情の念を感じさせられる。ライブツアーでも、数万人規模の場所で少ない回数だけをこなして終わらせる事はあまりせず、比較的小さなハコで多くの場所を回る。百戦錬磨のそのいでたちは、たとえ人見知りでシャイでも、今やベテランの貫禄がある。
 ライブには一度しか足を運んだ事はないが、2002年だったか、そのライブのオープニングで聴いたLes Paulでのリフの音、あの芯があって、太くて、迫力も暖かみも感じたあの音は、忘れられない。
 音楽に関しては、そのダラダラっぷりが評される事が多いが、私が特に大好きな所は、そんな中でごくたまに出てくるシャウトっぽい歌声だ。少しラウド目な曲などの、絶妙なメロディとタイミングの組み合わせで聴けるその声は、私の心にグサッと刺さる。
 私がLes Paul好きなのも、この人からの影響による所が大きい 。

2006.5.12

 

29 (1995)

   

 ということは、今はもう40か!なんとまぁ、おそろしい。
 profileの所でも書いたが、私がギターを始めるきっかけにもなった名曲『息子』も収録されている、いわば原点的な1枚。この曲は、音楽の事など何も知らない中学生の私に、ものすごく心に響いてきた。今改めて聴くと、これから羽ばたいていく若者の未来を心配するかのような歌詞もさることながら、Bob Dylanを思い出させるイントロと、他ではあまり聴かない不思議なコード進行と、そして絶妙な半音を用いた悲しげなメロディーセンスが堪らなく良い。
 バンド解散後の初アルバムなのに、全体的には「やったるぞ」というような勢いはあまり感じられない。勢いのある曲といえば『愛のために』くらいのもので、何曲かの歌メロが、オカン世代の人に「お経みたい」とまで言われる始末。とても落ち着いた大人な雰囲気の、味のある作品になっていると思う。それなりにギターを歪ませたロックな曲もあるのだが、それでもどこか暗い音色で味付けされている。最初に出した勢いのあるシングルで疲れてしまったのだろうか、昔のことや、故郷や、つまらなさそうな日常を歌った曲が多い。
 そんなアルバムの中にも、ユニコーン時代に培われたであろう「ちゃめっけ」な部分も、あちらこちらに散りばめられていて面白い。
 書いているうちに、ギターを弾きたくなってきた。大学時代に『町内会』という名前でやっていた、ユニコーン&奥田民生コピーバンドの事を思い出した。…そんなわけで、この辺で。

2006.5.12