bjork

 アイスランドが生んだ、音楽の女神様。妖精とか天使とか言われる事もある。
 彼女の歌声は、独特のハイトーンで美しい伸びがあり、時に優しくささやくように、また時には力強く叫び、計算されているようで非常に感情的で、嫌でも聴く者の心に突き刺さり、そして頭に残る。そのあまりにも個性的で印象的な声は、様々な所で聴かれるような、小手先で変に意識して作られた声ではなく、あくまでも自然な彼女自身の声だ。 音楽も非常に個性的で、だがマニアックな音響的前衛的な物ではなく、広く大衆の耳に届くポップミュージックの枠内で、それでもその枠には決して囚われる事のないスタイルを持つ。簡単に説明してしまえば、打ち込みやサンプリングのビートを基本にした物なのだが、ありきたりなギター以外は何でも取り入れようとするBjorkのサウンドは、そうしたジャンル的なレッテル張りも無意味で、何とも言い難い微妙な所に位置づけられると言える。
 PVもまた非常に個性的で見応えのある名作ばかりだ。自分の曲のビデオ監督に、才能ある新進気鋭の映像作家や写真家などを積極的に起用、ただの宣伝用に歌っている映像を作るのではなく、スタイリッシュで、同時にそこにも何らかの表現や意味を込め、曲のイメージを更に広げて進化させている。
 彼女はまた、ベストドレッサーとワーストドレッサーの両方を受賞したことがあるという経歴を持ち、普段から妙なファッションをする事でも有名。顔も個性的だから、変な格好が逆にオシャレに見えてしまう事もある。
 いくつかの映画に出演もしており、2000年には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌ国際映画祭・主演女優賞も受賞しており、半端でない多才ぶりを見せる。ちなみにこの映画の音楽も彼女の手による物で、アカデミー歌曲賞の候補にもなった。
 Bjorkは、時代の先を行っていながらルーツを大事にしているし、謙虚で傲慢で、サービス精神もあって、客観的視点を忘れることなく情熱的に、生物的・社会的な一人の人として、その時その時の考え方や興味も含めた自分の世界観をとことん突き詰めて構築し、音と、声と、言葉と、視覚でも、表現している。しかも適度に、多くの人々に伝わりやすい形で。彼女はアーティストの鏡だと思う。彼女こそが、アーティストと呼ぶにふさわしい人だと思う。
 これだけ長く書いてもまだ書き足りないし、余計な事をぐだぐだと書いた気にもなるから不思議だ。とにかく、音楽が好きだというなら、Bjorkは一度は絶対に聴いた方が良い。

2006.7.24

 

Homogenic(1997)

   

 まずこのジャケットに、凄まじいインパクトと存在感がある。ケチな私はジャケ買いはしないのだが、高校の時にCD屋で並んでいるのを見て気になっていたジャケットだった。一体何者なのか、どんなセンスの持ち主なのかと興味を抱いたのが、最初のBjorkとの出会いだった。そしてしばらくして、ビルボードTop 40というテレビ番組で『Bachelorette』のPVが流されていたのを見て、Bjorkの名前を知った。それまでに聞いた事のない斬新な音と魅力的な声にヤラレたわけだが、このアルバムを買うに至ったのはさらに後で、あの素晴らしい名曲と、ずっと頭に残っていたジャケットが結びついている事を知ってからだった。
 激しく攻撃的なノイズと、生々しく美しいストリングス。この新鮮で有り得ないような組み合わせが特徴的なこの作品は、Bjork自身にとって、故郷への想いと自らのルーツへの回帰なのだという。ノイズは、アイスランドの荒々しい気候や風土を表しており、またストリングスには、その国の民族音楽的な要素が多く取り入れられているそうだ。
  もちろん「素晴らしい名曲」は先に挙げた曲だけではない。そのひとつひとつを語るには私の語彙も知識も足りなさすぎるし、変に長くなっても無駄なだけなのでやめておく。だが、集中して真剣に聴けば、個々の音の流れや使い方、引き込まれるどころか何処かにイッてしまいそうな旋律、そして、心に響き渡る感情豊かな歌声に魅せられ、そのうちに、感動の涙をも流せる曲に巡り会えるだろうと思う。
  同時にPVも素晴らしい作品ばかりだ。特に最後の『All Is Full Of Love』は必見で、シングル用に変えられたアレンジの違いと共に、その雰囲気とうまくマッチした、神秘的なエロチシズムと満ち溢れる愛が表現された映像を、是非ぜひ堪能して欲しい。その見方によっては気持ち悪いと思われるかも知れないが、これは絶対に見た人にとって忘れられない作品になるだろう。
 『Homogenic』は、間違いなく90年代の代表的な超名盤だと言える。

2006.7.26