nine inch nails

 アメリカのソロ・ユニット。インダストリアル・ロック(メタル?)と呼ばれるジャンルの祖。 ライブや一部のPVではロックバンド形式を取っているが、基本的にはTrent Reznorという男が一人で孤独にやっている。そのロゴマークから「NIN」と略して書かれることもある。
 救いようがないくらいネガティブな歌詞に、耳障りなノイズや不自然に加工された歪んだギターの音、そしてその合間に希に出てくる美しいピアノやアコギの音が特徴的だが、楽曲としての作りは実はシンプルな物が多い。
 その暗さと作り込まれた個性的なサウンドがとっつきにくく、日本での人気はいまひとつのようだ。だが一度ハマると、まるで新興宗教信者みたいに崇拝するようになる人が多い。至る所で「カリスマ」と呼ばれる所以はそこだろう。「カリスマ」なんて、一時期日本国内で無闇やたらに使われていた言葉で、個人的には嫌いなのだが、NIN教在家信者の一人である私からしてみれば、彼こそは本物だと言わざるを得ない。それに 、Nirvanaが世界を騒がせる以前から、既にオルタナティブ的な音楽性を確立していたという事実だけでも、十分称賛に値する。 また、Marilyn Mansonを世に送り出したという事でも有名である。
  サウンド面のみならず、もちろんボーカリストとしての表現力も備えていて、小手先でエフェクトを多用する必要はなく、こみ上げる感情を吐露するように叫び、また堪えるように囁き、そしてシラけたように冷静に、実に様々に歌い上げて聴く者を引き込んでいく。
 ライブは、音・光・映像・パフォーマンスの全てに拘った、完璧主義的なイメージ。一昔前までは、彼のライブと言えば破壊・破壊・破壊だったが、最近は割とそうでもなくなった。同時にサウンド面でも、最近の作品ではある程度の落ち着きを見せている。
 作品の発表頻度は非常に少なく、フルアルバムとなると5年に1度のペース。そして滅多に来日しない。

2006.5.11

 

The Downward Spiral (1994)

 

 90年代のベスト5に入れて良い名盤。
 このジャンルではなかなか考えられない売り上げも記録していて、たしか全米初登場2位だったと思うが、「こんなに暗い作品が何故売れたのか」と驚く声も少なくないようだ。
 中身は正にタイトル通りで、真剣に聴いているうちに凹める事請け合いだが、それでも曲のバリエーションは非常に豊かで、多様なビートやサウンドを巧みに使い分けてその表現力のすごさを見せつける。
 何なのかは分からないが何かを叩く音と、何者かの呻くような声でこのアルバムは始まる。そして突然のノイズ音で驚かされたかと思えば、急に静かになったり、また激しくなったりする。その静と動・押しと引きの巧さは、一曲一曲それぞれの展開という意味でも、またアルバム全体の構成やバランスという意味でも、素晴らしいの一言だ。
 前半で怒りと自己嫌悪の危うさを堪能できたなら、後半では涙をも流せるだろう。前置きも何もなくても、"a worm place"というインスト曲には聴いた人に何らかの感情を引き起こさせる力があるし、以降の流れは、静かに泣くかとことん凹むか、または異世界へトリップしてしまうしかなくなる。そして、名曲"hurt"で、まだ救いがあるのかも知れないというような曖昧な匂いを残し、アルバムは終わる。
 人間のマイナス面を全て吐き出したような作品だ。私はこういう作品にこそ、本当のこと・上っ面で誤魔化さない真実の部分を見いだせる気がする。
  ああ…そうか。 これはダウン系のクスリなのだ。ハイになって馬鹿みたいに盛り上がりたいだけの奴らのための作品ではないのだ。第一、全体的にノリにくいのだ。 そりゃ、とっつきにくいわ。
 なお、この作品のリミックス・リマスター版が2004年に発表されている。こちらはアルバム未収録作品や、B-side作品が収録された物もついてくる。

2006.5.11